【本日の目次】
サンフランシスコ在住の方からのご依頼
カリフォルニア州サンフランシスコ在住の日系の30代男性M様からある日突然お電話いただきました。「今、日本に滞在しているんだけれど、その期間中に鍼灸治療を受けたい」という治療のご依頼でした。
鍼灸治療を希望されているのは、一緒に旅行をしている40代のアメリカ人の彼女さんとのこと。
恵比寿駅近くに宿泊していて「本格的な鍼灸治療を受けられるところがどこかないか?」とネット検索をして香庵を見つけてくださったとのこと。
M様は日本語も話せるので、通訳もかねてお二人で来院していただくことになりました。
症状について
40代のアメリカ人の彼女さん(T様)と一緒に1か月の日本旅行に来たものの、お互いとても繊細な性格で街歩きに疲れては公園などで瞑想や呼吸法をされているとのことでした。
T様は人生で2回、交通事故にあわれたり、10代の頃に摂食障害があったりされ、今でも体調には気を使うことが多いとのことでした。
M様もT様も、アメリカの中ではヨガやピラティス、仏教や東洋哲学などが盛んな地域にお住まいとのことで、アメリカでは中国人の鍼灸師の方から鍼灸治療を受けたご経験もあるとのことでした。
海外の鍼灸事情
海外の鍼灸治療は日本とかなり違うやり方やルールがあり、そのことを理解する必要がある...ということを、以前、講習会で習ったことがあります。
アメリカでの鍼灸治療では、鍼やお灸をするとき、身体のどの部分に触れるかをまず伝えて、OKということになったことを確認してから施術を行う、ということを1か所ずつのツボごとに行うといいます。
また、多国籍な社会では、民族や宗教などの理由から触れていいもの・ダメなものが違うということも聞きます。
・香庵での事例
以前、中東地域の出身でイスラム教徒の方から腰痛治療のご依頼がありました。
イスラム教徒の男性は、公衆浴場などで男性同士であっても腰の部分は人目にさらさないという習慣があり、タオルを巻くのが礼儀とされているとのことでした。
こうしたケースでも、具体的にどこに鍼をして、どういう効果を引き出すのかをあらかじめご説明して、骨盤周囲の筋肉のコリをゆるめる必要があることをお伝えすることで、例外的に腰の部分への施術を受け入れていただけたことがあります。
ご本人の生活習慣や生き方の中で大事にされているものを尊重することは、安心して鍼灸治療を受けていただきながら治療効果を最大限に引き出すステップの一つではないかと思います。
M様とT様にも、このような事例を挙げて、今回の鍼灸治療においてNGなものがあるかどうかを伺ったところ「日本の鍼灸治療を受けたいから、まったく気にしなくていいです!っていうか、そこまで気づかいがあるなんて、日本的ですね!」とのことでした( ̄▽ ̄;)
香庵の診断・分析
今回来院してくださったこと、とてもうれしいです。
そして、おそらく一期一会の鍼灸治療になると思うんです。
本格的な鍼灸治療がご希望、ということでしたが、どんな治療か、具体的なイメージはありますか?
と、率直に聞いてみました。
すると、M様からもT様からも、同じ答えが返ってきました。
あなたが持っているもの(テクニックや知識、いつも行っている治療、キャラクターなどすべて)をみせてください!
・・・とのことでしたΣ(・∀・ノ)ノ!←いろんな意味でざっくり過ぎやしませんか~?って正直思った瞬間でした☆
欧米の方が香庵に鍼灸治療で来院されるとき、一般的な日本在住の日本人の方からのご依頼方法の違いは大きいと感じることがあります。
日本人の方だと、細やかに症状や病気の経歴、現在の状況、生活習慣などいろいろお話をお伺いしながら、鍼灸治療についての疑問や不安があればそれを解消したうえで鍼灸治療を始めるケースが圧倒的に多いんです。
でも、欧米の方は、来院して自己紹介が終わったら、さぁ!あなたのプロフェッショナルとしての診断と治療をしてください!以上!...みたいな(;^ω^)←いや、もっと情報くださいっ!って、つい、言ってしまう瞬間です(笑)
ポジティブなメッセージで才能を引き出すアメリカの人々
有名なアメリカの公開オーディション番組「アメリカズ・ゴッド・タレント(AGT)」をご存知でしょうか。日本人のコメディアンやダンサー、ダンスチームが出場したことで日本でも広く知られるようになった番組です。
その番組で、出場者がパフォーマンスをする前に審査員の方が「ここからこの場所はあなたのステージよ!さぁ!あなたの才能を私たちに見せて!」と言うシーンを何回か見たことがあります。
また、ずいぶん前、私がダンスをしていたころの話です。
ブロードウェイでダンサーとして活躍されていたアメリカの黒人男性の方がその後、演出家となって来日されたことがありました。都内のあるダンススタジオのご招待とダンスオーディションの審査員を兼ねて来日されていたようです。
そして私は不思議なご縁で、彼のワークショップに参加することになりました。
ワークショップでは、参加者一人一人に課題が出され、1~2分ほどの作品に仕上げるというものがありました。
そのとき、黒人の演出家の方が「さぁ!君の才能をこの場所でみせて!」と力強く言われたことがありました。
演出家の方のとてもポジティブで温かいエネルギーに包まれたような感覚があって、もちろん、ダメ出しのときはビッシビシに厳しい指摘も受けるんだけど、それさえも、もっと感性を磨くための前向きなエネルギーを引き出していただけたという体験があります。
これまでにも香庵にはさまざまな国籍の方から鍼灸治療のご依頼をいただいています。
その中でもとくにアメリカ人の方からは、何かを一生懸命やっている人に対して「才能があるからそれを選んでいるはず!あなたの中に芽吹いたその能力をみせて!」というようなメッセージを発する、そんなポジティブな文化があるのかな?と、感じることが多いです。
施術内容と経過
今回は、鍼灸治療の基本的診断と治療のやり方をご説明しながら、疲労回復の鍼灸治療を体験していただくことにしました。
仰向けでの診断と治療
鍼灸治療の基本的診断方法として、脈診(みゃくしん)と腹診(ふくしん)があります。
脈診は、手首の動脈拍動部で全身のエネルギーバランスの状態を診断します。
腹診は、お腹の皮ふの温・冷、硬さや弾力などからお身体の不調を診断します。
さらに、香庵では、筋肉のコリの強さと疲労回復力の低下をチェックする方法があります。
仰向けの状態で肩やウエストの後ろがベッドからどのくらい浮いているかでチェックする方法です。
これは、ご自宅でもセルフチェックができる診断方法として皆さまにご紹介しているものです。
さらにおからだの左右のコリや筋肉疲労の違いが足の長さの違いに現れている場合があります。
このこともチェックをしたうえで、鍼治療を行います。
T様は疲労感が強く、筋肉が硬くリラックスしにくいお身体の状態でした。本来のスムーズな血液循環が硬くなった筋肉に邪魔されてしまい、ますます疲労が取れないという負のループが起きている状態でした。
東洋医学ではこうしたおからだの状態を「肝(かん)のエネルギーが消耗した」という意味で「肝虚証(かんきょしょう)」といいます。
東洋医学の「肝」のエネルギーとは
「肝(かん)」は、全身のエネルギーバランスの中でも血液を全身にスムーズに流通させる、というエネルギーを意味しています。
「肝」ということばから肝臓という臓器そのもの(Liver : レバー)をイメージすることもありますが、東洋医学では肝臓という臓器そのもの(Liver : レバー)を指すわけではないんです。
だけど、英語圏で東洋医学を学ぶ方は、エネルギーの象徴としての「肝(かん)」のことを肝臓という意味の「Liver : レバー」と訳して学ぶため、少し混乱が起きやすいようです。
肝(かん)のエネルギーを回復させるには、そのエネルギーが流れるとされる経絡(けいらく)の上に存在するツボに鍼をします。
ただ、経絡上にはいくつものツボがあり、ツボによっては「からだを温める」「水分の流れを整える」「元気を上げる」「エネルギーの異常な高ぶりを抑制する」など、それぞれツボがもつパワーが違います。
そのため治療では、経絡上にあるツボのパワーを正確に引き出して体調を整える必要があります。今回は「筋肉をゆるめて血流を促す」パワーをもつツボを選び、鍼をしました。
施術前にチェックしておいた仰向けの状態でベッドから浮いていた肩やウエストの後ろがベッドに付き、ズレていた左右の足の長さがそろっていることを確認していただきました。
うつ伏せでの診断と治療
うつ伏せ姿勢では、背骨とその両脇にある背中の筋肉の状態を押しながらチェックしました。
本来、背骨をゆっくり圧迫すると、その圧に応じて背骨は竹のようにしなります。でもT様の背骨は、1本の棒のように硬くなっていました。
そして背骨の左右の筋肉は本来、弾力があるものですが、硬くこわばったようになっていました。
背骨のしなやかさと背中の筋肉の弾力性。これらを取り戻すことにしました。
背骨の両脇に沿って皮ふの状態をチェックすると、皮ふの正常な張り感が弱かったり、色味がくすんでいたりするところがあります。その部分を少し圧迫すると、奥にガチガチッと硬いコリがあり、同じ位置でも深さによってコンディションが全く違うところをみつけていきます。
そのポイントが鍼をして症状を改善するための反応点(ツボ)です。
鍼の刺激で筋肉をゆるめてコリを取り、お灸で血流を促していきました。
施術後、背骨がしなやかに動き、筋肉の弾力性を取り戻していただき、呼吸も楽にできるようになったことで鍼灸治療の効果を実感していただくことができました。
日本とアメリカ~治療風景の違い
T様は、香庵での鍼灸治療を体験されてアメリカで受けた鍼灸治療との大きな違いについてお話してくださいました。
アメリカで鍼灸治療を受けたときはズラリと何台も治療ベッドが並んでいて、片っ端から鍼灸師が鍼をして、スタッフがお灸をしていく、というスタイルだったそうです。
T様は「まるでマクドナルドのハンバーガーになったみたいよ~!」と仰ってました(^▽^;)
ズラリと何台も治療ベッドが並んでるところは、鍼灸治療を流れ作業のように行うことで、症状に悩まれる多くの方を治療できるし、多くの症例を集めて学会などで発表することもできるというメリットもあるかもしれません。
私のところでは、お一人お一人を丁寧に診て、その方にご自身のおからだの状態をお伝えしながらリラックスして症状改善していくことで、ご自身の心とからだに向き合う時間を過ごしていただきたいな、と考えています。
また、ツラい症状が改善して良いコンディションをキープできるようになることで、ライフスタイルがよりよいものになっていくようにサポートできたらうれしいな、と思っています。
彼女さんのT様の施術を横で通訳をしながら見ていたM様、
・鍼灸治療の1本1本の鍼とツボの関係に意味があること
・診断が治療に直結していること
・効果を確かめながら治療が進んでいくこと
・東洋医学的診断によってからだの不調を読み取るストーリーがあること
...など、面白かったとのことで「僕も鍼灸治療受けてみたい...!」とリクエストいただきました(笑)
やはり一期一会の鍼灸治療になると思い、M様のお身体を診断してお伝えし、疲労回復の鍼灸治療を体験していただくことにしました。
治療の振り返り・院長より
M様も彼女さんのT様も、鍼灸治療を受けられて、一人一人のからだを診断して治療するときにちゃんと説明を受けるという体験をされたのは初めてとのことで、そのことにめちゃくちゃビックリされているようでした。
今回、M様は、ルーツである「日本」という国を見てみたい!という気持ちでお金をためて、やっと来ることができたとのこと。
もともと日本のことを知りたい、東洋の文化を吸収したい、という気持ちが強いM様は、以前の職業がヨガ講師だったとのことで、東洋哲学や仏教、鍼灸治療について学んだことがあったそうです。
だからこそ、実際に香庵で診断や治療の説明も興味深く聞いていただきながら、鍼灸治療を体験していただけたのではないかと思います。
この体験がお二人にとって日本滞在中の良い思い出のひとつになってくれたらうれしいと思いました。
最後にお二人から「鍼灸治療を受けてみてよかった~!っていうか、先生、鍼灸治療、めっちゃ好きですよね~?それがすごく伝わりました~(*´▽`*)(*´▽`*)」というお言葉をいただきました。
あ、バレちゃいました?(笑)
M様もT様も体調を継続してサポートすることはできないけれど、今回ご紹介したセルフチェックの方法なども活用していただきながら、帰国されるまで楽しくステキな旅を満喫していただけたらうれしいですね!
またいつか機会があればぜひご連絡をお待ちしていますね!
五反田の鍼灸院 香庵(かのん)について
当院の院長、加藤は国家資格を取得しております ・鍼師(2000年~) ・灸師(2000年~) ・あん摩マッサージ指圧師(2000年~) また、第43回日本伝統鍼灸学会学術大会、世界鍼灸学会連合会学術大会WFASなどにて発表経験もあり、研究成果の発表も行っております。
場所:東京都品川区大崎5-4-7ハイツ五反田203号
五反田駅をご利用の方
JR山手線・都営浅草線 五反田駅西口改札 徒歩5~7分(約500m)